清川隼矢 インタビュー Interview with Shunya Kiyokawa
- 2016/05/28
- 08:36
「n平均律による作曲技法の構築 ~『Das N -EDOs Klavier』曲集の創作に向けて~』」という論文で学士を取り、この5月にDas N -EDOs Klavier(5平均律から24平均律までの微分音ピアノ楽曲集)を完成させた清川隼矢氏。
待ってましたとばかりに、いつものFAQ形式ではあるものの、インタビューを行いました。
Todaya's interview is with Shunya Kiyokawa, who recently composed Microtonal piano music collection in 5EDO(ET) to 24EDO). Unfortunately we didn't have enough time to bring English interview but if you haven't heard his works yet, please take a listen to his works on his YouTube.
Das N -EDOs Klavier.(5平均律から24平均律までの微分音ピアノ楽曲集)

清川隼也 (Shunya Kiyokawa)
・微分音に興味持ったきっかけを教えてください。
どんな音楽を作曲しても、オリジナルの音楽ではないとずっと感じていました。なぜならどんな音楽的手法を用いても、すでに過去の人がそれを思いついていたからです。そんな時、 不協和曲線(dissonance curve)という概念を知りました。それには、ド―ミ♭(短 3 度) の響きを協和音とみなすならば、ほとんどの音が協和するということが記されていました。 ではなぜ音楽がドレミファソラシドという概念で作曲されなければならないのか、という根本的疑問に至ったのです。そこから、1 オクターブの音の数をさまざまに変えることを思いついたのです。
・ということは、微分音音楽というものが存在するのを知るより前ということになりますか?
そうです。そこから微分音興味持ち始めたのです。
・すごいですね!よろしければ制作環境を。
DAW は Reaper というソフトを使用しています。実際の画面が次のキャプチャです。

通常の DAW と違い、ノートネームを自在に編集でき、加えて白黒のピアノロールから解放され、自在にオクターブの数を編集できているのがお分かりになるかと思います。うっすらと白黒があるのですが、なれれば無視できるレベルです。
『Das N -EDOs Klavier』曲集の音源は、Kontakt のピアノの音色を使用しています。 Kontakt のピアノ音源で微分音を再生する方法は、私の運営している web ページでまとめ ておりますので、そちらをご覧ください。いくつかのやり方がありますので。
https://sites.google.com/site/microtonalmemo/how-to-microtuning
・微分音楽曲集を作る上で、各楽曲の構成における統一したコンセプトなどあれば教えてください。
むしろこれまで n 平均律の作曲をする際、手法がバラバラすぎたので、『Das N -EDOs Klavier』曲集で手法を統一して作曲しています。n 平均律とは、海外で nEDO または nET と呼ばれる概念を、私が日本語に翻訳したものです。
オクターブを、等しい音程の大きさで分割した調律の総称です。1 オクターブを 5 分割した音で作曲するならば 5 平均律、24 音で作曲をするならば 24 平均律になるわけです。私の知る中で、同じアルゴリズムを複数の 平均律にわたって使用した楽曲集は 1 つもありません。Warren Burt の『39 Dissonant Etudes』という楽曲集が、5 平均律から
43 平均律まで、似た雰囲気で作曲されているものの、各小節はランダムに生成されています。
そのため、私は全平均律の楽曲が、同じアルゴリズムで書かれた楽曲集を作ろうと考えたのです。
この楽曲集は、これまでの音楽とは大きく違う点が 3 つあります。1 つは使用している調律が違うこと。ドレミがありません。2 つ目はドレミファソラシドやラシドレミファソラというような調・Key という概念がないこと。この音に対してはこれらの音のどれかを使う、というルールを用意しているのですが、それは演奏中に現れた音で変わっていきます。3 つ 目は 1 つ 1 つの和音に固定された意味がないことです。クラシック音楽では厳密に、ポピュラー音楽ではある程度、この和音はこういう意味があってここに向かう、というものがあります。しかし『Das N -EDOs Klavier』では、
「その平均律の独特な響きを楽しむ」という目的のために、さまざまな和音の可能性を順番に示しています。そのため、各和音に意味 があるのではなく、さまざまな和音の響きが曲中にあるということに意義があるのです。
・微分音はあなたにとって?
自分だけの音楽を探求できる唯一の場です。ドレミファソラシドを使用して作曲を試みても、その枠組みの歴史が長すぎて独自性が創れないのです。あ、なんかそのフレーズ聞いたことあるな、こういうのよくあるな、という感覚になってしまうのです。しかし任意の微分音を正確に出せるようになったのは、チューナーとシンセサイザーが誕生した以降です ので、おおよそ1980年からです。歴史は非常に短く、この分野の音楽開拓はこれからです。 これまでの音楽から抜け出した、新たな音楽の可能性をもったフィールド、それが微分音です。
・微分音以外の音楽で特に好きなものはありますか?
聴くことに関してはなんでも聴きますよ(笑)。作曲するときに自分のオリジナル性が感じられずに微分音を使用しているのであって、他人のオリジナル性に関してはドレミから感じ取ります。もちろん楽しんで聴きますよ。
ただそうですね、音楽技法的に好きなのはセルゲイ・プロコフィエフという音楽家の音楽です。転調手段が面白いんですよ。当時の転調手法を徹底的に使わない。曲中で 100 回ぐらい転調するのに全部やり方がめちゃめちゃ。このひねくれてる感じが好きです。作曲時におけるピアノの使い方なども彼から学んでいるところがあります。
・若い世代や、これから微分音始める方に何かメッセージがあればどうぞ。
若い世代の音楽が好きな方には、今のうちからいろんな音と音楽を意識的に聴いてほしい。音楽全般において、耳が固くなるのは本当に怖いことです。耳が固くなると、周りの音に疑問をもてなくなります。なぜ人は見もしないテレビをつけ音を聞くのか、なぜ車の音という危険性のある音ばかりが周りにあるのか、なぜイヤホンをして音楽を聞き、外部の音をシャットアウトしたがるのかなどなど。音楽家は音と共に生きる人々です。本当に素晴らしい音を知ることのなく、気づくことがなく年を重ねてしまうのは、音楽家として恐ろしいことです。
若い世代、微分音を始める方共に、なぜドレミで作曲しなければならないのかを考えていただきたい。ドレミである必要性を考えていただきたい。そこに明確な理由はなく、ドレミしか周りにないからドレミを使っている場合が多いのではないかと思います。しかし音楽の原点は人が話をし始めた前から存在しています。その時代にドレミという概念はなかった。むしろ音楽がドレミばかりだという状態がおかしいと考えていただきたいのです。
人間の歴史はまだ 100 万年程度。まだ人類が数億年続いていくと考えるなら、受容する音楽は今後変わっていくはずです。その音楽を創っていくためには、今一度ドレミの必要性 を考える必要があるはずではないでしょうか。
Thanks Shunya-san!
非常に明晰な考えを持って微分音に取り組まれているからこそ、 微分音ピアノ楽曲集も完成させられたのでしょう。
この貴重な作品はYouTubeで聴くこともできます。
Das N -EDOs Klavier(5平均律から24平均律までの微分音ピアノ楽曲集, Microtonal piano music collection in 5EDO(ET) to 24EDO)
色彩的に比較したn平均律の図表も美しいです。個人的には実際の演奏によって初演されるのが待ち遠しいです。
soundcloud
https://soundcloud.com/shunya-kiyokawa
記事作成
H. Wakabayashi
待ってましたとばかりに、いつものFAQ形式ではあるものの、インタビューを行いました。
Todaya's interview is with Shunya Kiyokawa, who recently composed Microtonal piano music collection in 5EDO(ET) to 24EDO). Unfortunately we didn't have enough time to bring English interview but if you haven't heard his works yet, please take a listen to his works on his YouTube.
Das N -EDOs Klavier.(5平均律から24平均律までの微分音ピアノ楽曲集)

清川隼也 (Shunya Kiyokawa)
・微分音に興味持ったきっかけを教えてください。
どんな音楽を作曲しても、オリジナルの音楽ではないとずっと感じていました。なぜならどんな音楽的手法を用いても、すでに過去の人がそれを思いついていたからです。そんな時、 不協和曲線(dissonance curve)という概念を知りました。それには、ド―ミ♭(短 3 度) の響きを協和音とみなすならば、ほとんどの音が協和するということが記されていました。 ではなぜ音楽がドレミファソラシドという概念で作曲されなければならないのか、という根本的疑問に至ったのです。そこから、1 オクターブの音の数をさまざまに変えることを思いついたのです。
・ということは、微分音音楽というものが存在するのを知るより前ということになりますか?
そうです。そこから微分音興味持ち始めたのです。
・すごいですね!よろしければ制作環境を。
DAW は Reaper というソフトを使用しています。実際の画面が次のキャプチャです。

通常の DAW と違い、ノートネームを自在に編集でき、加えて白黒のピアノロールから解放され、自在にオクターブの数を編集できているのがお分かりになるかと思います。うっすらと白黒があるのですが、なれれば無視できるレベルです。
『Das N -EDOs Klavier』曲集の音源は、Kontakt のピアノの音色を使用しています。 Kontakt のピアノ音源で微分音を再生する方法は、私の運営している web ページでまとめ ておりますので、そちらをご覧ください。いくつかのやり方がありますので。
https://sites.google.com/site/microtonalmemo/how-to-microtuning
・微分音楽曲集を作る上で、各楽曲の構成における統一したコンセプトなどあれば教えてください。
むしろこれまで n 平均律の作曲をする際、手法がバラバラすぎたので、『Das N -EDOs Klavier』曲集で手法を統一して作曲しています。n 平均律とは、海外で nEDO または nET と呼ばれる概念を、私が日本語に翻訳したものです。
オクターブを、等しい音程の大きさで分割した調律の総称です。1 オクターブを 5 分割した音で作曲するならば 5 平均律、24 音で作曲をするならば 24 平均律になるわけです。私の知る中で、同じアルゴリズムを複数の 平均律にわたって使用した楽曲集は 1 つもありません。Warren Burt の『39 Dissonant Etudes』という楽曲集が、5 平均律から
43 平均律まで、似た雰囲気で作曲されているものの、各小節はランダムに生成されています。
そのため、私は全平均律の楽曲が、同じアルゴリズムで書かれた楽曲集を作ろうと考えたのです。
この楽曲集は、これまでの音楽とは大きく違う点が 3 つあります。1 つは使用している調律が違うこと。ドレミがありません。2 つ目はドレミファソラシドやラシドレミファソラというような調・Key という概念がないこと。この音に対してはこれらの音のどれかを使う、というルールを用意しているのですが、それは演奏中に現れた音で変わっていきます。3 つ 目は 1 つ 1 つの和音に固定された意味がないことです。クラシック音楽では厳密に、ポピュラー音楽ではある程度、この和音はこういう意味があってここに向かう、というものがあります。しかし『Das N -EDOs Klavier』では、
「その平均律の独特な響きを楽しむ」という目的のために、さまざまな和音の可能性を順番に示しています。そのため、各和音に意味 があるのではなく、さまざまな和音の響きが曲中にあるということに意義があるのです。
・微分音はあなたにとって?
自分だけの音楽を探求できる唯一の場です。ドレミファソラシドを使用して作曲を試みても、その枠組みの歴史が長すぎて独自性が創れないのです。あ、なんかそのフレーズ聞いたことあるな、こういうのよくあるな、という感覚になってしまうのです。しかし任意の微分音を正確に出せるようになったのは、チューナーとシンセサイザーが誕生した以降です ので、おおよそ1980年からです。歴史は非常に短く、この分野の音楽開拓はこれからです。 これまでの音楽から抜け出した、新たな音楽の可能性をもったフィールド、それが微分音です。
・微分音以外の音楽で特に好きなものはありますか?
聴くことに関してはなんでも聴きますよ(笑)。作曲するときに自分のオリジナル性が感じられずに微分音を使用しているのであって、他人のオリジナル性に関してはドレミから感じ取ります。もちろん楽しんで聴きますよ。
ただそうですね、音楽技法的に好きなのはセルゲイ・プロコフィエフという音楽家の音楽です。転調手段が面白いんですよ。当時の転調手法を徹底的に使わない。曲中で 100 回ぐらい転調するのに全部やり方がめちゃめちゃ。このひねくれてる感じが好きです。作曲時におけるピアノの使い方なども彼から学んでいるところがあります。
・若い世代や、これから微分音始める方に何かメッセージがあればどうぞ。
若い世代の音楽が好きな方には、今のうちからいろんな音と音楽を意識的に聴いてほしい。音楽全般において、耳が固くなるのは本当に怖いことです。耳が固くなると、周りの音に疑問をもてなくなります。なぜ人は見もしないテレビをつけ音を聞くのか、なぜ車の音という危険性のある音ばかりが周りにあるのか、なぜイヤホンをして音楽を聞き、外部の音をシャットアウトしたがるのかなどなど。音楽家は音と共に生きる人々です。本当に素晴らしい音を知ることのなく、気づくことがなく年を重ねてしまうのは、音楽家として恐ろしいことです。
若い世代、微分音を始める方共に、なぜドレミで作曲しなければならないのかを考えていただきたい。ドレミである必要性を考えていただきたい。そこに明確な理由はなく、ドレミしか周りにないからドレミを使っている場合が多いのではないかと思います。しかし音楽の原点は人が話をし始めた前から存在しています。その時代にドレミという概念はなかった。むしろ音楽がドレミばかりだという状態がおかしいと考えていただきたいのです。
人間の歴史はまだ 100 万年程度。まだ人類が数億年続いていくと考えるなら、受容する音楽は今後変わっていくはずです。その音楽を創っていくためには、今一度ドレミの必要性 を考える必要があるはずではないでしょうか。
Thanks Shunya-san!
非常に明晰な考えを持って微分音に取り組まれているからこそ、 微分音ピアノ楽曲集も完成させられたのでしょう。
この貴重な作品はYouTubeで聴くこともできます。
Das N -EDOs Klavier(5平均律から24平均律までの微分音ピアノ楽曲集, Microtonal piano music collection in 5EDO(ET) to 24EDO)
色彩的に比較したn平均律の図表も美しいです。個人的には実際の演奏によって初演されるのが待ち遠しいです。
soundcloud
https://soundcloud.com/shunya-kiyokawa
記事作成
H. Wakabayashi
スポンサーサイト